幸せと物質について
主人はギターを買った。
どこぞの有名ギタリストが使っているものと同じ。
値段もそこそこ高い値がしていたものだ。
良い音も出るらしいし、見た目もかっこいい。
しかし、その主人は上手くギターが弾けなかった。
アンプに繋ぎ、音を出してみるが、コードはチグハグで、リズムもバラツキがある。
誰が聞いてもそれは下手で、人前なんかでは聴かせられる代物ではなかった。
それでもその主人は音楽が好きで、毎晩のようにギターをかき鳴らしては、時にコードの指遣いで躓き、時に単純な基礎練習に時間を多く取られながらも、そのギターと多くの時間を過ごした。友人のように。
しかし、綺麗なことばかりじゃなかった。
苦痛を伴うことの方が大方を占めていた。
できない自分と、憧れや、想像の中での自分とのギャップ。
仕事以外にも、普段の生活にも追われている。
夜になって落ち着く頃には、深夜を迎えそうな日がほとんどだった。
それでも、毎日コツコツ、ギターに触れ、その音色を奏でていた。
数ヶ月経つ頃には、粗は目立つが、技術もだいぶ向上し、街に出ては、小さな飲み屋のオープンマイクなんかで披露するようになった。
そこはみんな音楽が好きで、達者なプロアマから、カラオケのような歌歌い、某バンドが大好きなカバーバンドマン、とにかくライブの経験を積みたい駆け出しのラッパーなど、多種様々な人たちがいた。
皆、昼間は教師だったり、配管工だったり、看護師や学生、営業マン、会社役員とそれぞれ違う仕事をしていた。
そこで得たものは、出会いだった。
出会いは、新たな見識を呼び、新たな見識は新たな人生観や、チャンスを生んだ。
主人は、投資を始め、ビジネスに挑戦し、やがて以前より豊かになり、心は余裕を得た。
余裕は、更なる視野の広さや、柔軟な視点を生み出した。
ギターはプロほどではないが、以前より上達した。
主人は、ある日以前の人生との違いに気づいた。
人並みに、挫折が多い人生で、口だけで終わった夢もたくさんあった。
主人がしたことは以下の通りである。
・過去の挫折に囚われず、要身のある事に挑戦した。
・安いすぐ手に入る物ではなく、吟味し、自分の気持ちと向き合い、その時は実力に見合ってはなかったが素直に欲しいものに投資した。
・継続した。ある意味で挫折してきた自分を受け止めた分、自分に変な期待は持たなかった。
・弱い自分に対して、対策を設けた。
例えば、メンタルの上下を抑え自分をコントロールするために安定剤に頼る、食事の管理を学び食事の取捨選択をとる。
アルコールの摂取を軽減し、意思力を低下させる要素を排除する。
瞑想や、ジャーナルをつけ、日々の行動や感情にケジメをつけた。
夜ふかしは程々にし、寝るときはきちんと寝た。
つまりは、メンタルの良し悪しに左右される自分を受け入れ、弱さを認めた上で自分を変えた。
コツコツ継続した。=変な期待はない、下手だろうがなんだろうがもうその時がアジャストで夢の実現の瞬間であることに気づいた。